翻訳者の全技術(著:山形浩生)を読んだって話。

翻訳者・山形浩生による著書。翻訳者の全技術と書いているが、決して細かな翻訳の術が書いてあるわけではない。基本的に氏が大切にしているスタンスであり、知的生産技術の手法が記されている。
博覧強記という言葉がぴったりな著者。翻訳の領域はクルーグマンやピケティといった経済学から伽藍とバザールのIT、ファインマンといった物理学、ジェインジェイコブスの都市計画、バロウズといった文学作品など多岐にわたる。またアイアンマウンテン報告のようないわくつきの作品も訳したり。彼が日本に紹介したコンセプトは数知れず。しかも彼は自身の興味から翻訳を取り上げたりする。それを無料で公開していたりするのだ。無料公開のハーバードサイモンの記念公演”人間活動における理性”なんかは読み耽ったのも懐かしい。
そんな彼の翻訳者として大切にしているジェネラリストとしての姿勢、そしてあらゆる領域で二流だからこ新たなコンセプトの領域に対して最高の翻訳をこなすことができるという自負も圧巻である。
意外にも彼はさまざまな批評をこなすが、自身について語ることは少ない。山形浩生ファンとして読み応えのある一冊であった。にしてもこれだけ精力的に活動していて本業が開発経済学のコンサルタントということがいまだに信じられない。